佐藤信さん

東京学芸大学の私の前任、佐藤信さんのゼミには院生のころからもぐらせてもらっていた。信さんは、自分はアカデミズムの人間ではないから、自分のことを「佐藤先生」と呼ばないで「信さん」と呼んでほしいと言った。だから今でも私は信さんと呼んでいる。そんな信さんがうらやましかったんだと思う。

19年前、佐藤信さんが東京学芸大学の教授になると新聞で見た。院生だった私は、一回授業をのぞいてみたいなと思って、学芸大のキャンパスをおとずれ、初回の授業に向かった。さぞかしすごい数の学生がいるんだろうなと思ったら、学生はたった3人だった。その日、私のレギュラー入りが決定した。

信さんは社会科学的な背景を持ち、インプロをやっている私のことをおもしろがってくれた。出会って半年後の夏には信さんと私は一緒に演劇ワークショップのファシリテーションを学芸大の芸術館ホールでやっていた。それ以来、信さんは私に数限りないチャンスをあたえてくれた。

世田谷パブリックシアターとつながりができたのも、今、東京学芸大学で教えているのも、座・高円寺劇場創造アカデミーで教えているのも、全部、佐藤信さんと出会ったおかげだ。感謝しても感謝しきれない。

佐藤信ゼミにもぐっていた院生のころ、ゼミ終わりに信さんに「博士は取れないかもしれません…」と言ったことがある。信さんは「絶対、取った方がいいよ」と即答した。たぶん信さんは博士のことはよくわかってなかったと思う。でもそんな根拠のない信さんの言葉は、私にとってずっと励みになった。

(2019/4/17)