学校吹奏楽の指揮の技術的ポイント。ここ最近、学校吹奏楽の指揮をたくさん見させていただきました。その中で、こうするともっといい指揮になりそうと思ったことがいくつかあります。
その1。指揮者の譜面台の高さがもっと低くていいと思うことがあります。譜面台が高かったり、角度がついていたりすると、譜面台に手が当たらないようにと、構えの位置が高くなりすぎて、顔の前で振ってしまいます。私は譜面台を水平にし、丹田ぐらいの高さにしています。
指揮を振る手はピアノを弾く高さぐらい、上腕は地面と水平になります。
普段の合奏の際、指揮台に椅子を置いて座って指揮をされている方、指揮台を使わずに指揮をされている小柄な方に、譜面台が高すぎる、構えの位置が高すぎる問題が発生しやすいかなと思います。指揮台を叩いたり、スティックを叩いたりして合奏しているならなおさらです。
もしどうしても椅子に座って指揮をしたいならば、指揮専用の椅子か、高さの高い椅子がいいように思います。でも可能なら、指揮台を使い、立って指揮をすることを強くおすすめします。
指揮台が低くなった場合、スコアを見ようと頭が前に出て視線が下がってしまうおそれがあります。スコアはだいたいは頭に入れておき、時々確認する程度に見るようにして、基本は頭を上げて胸を張り、視線は演奏者に注げるといいと思います。頭は動かさないのが基本です。頭を振らないように注意です。
その2。手首をロックして、ひじを動かして振っている指揮が多く見られます。そうすると拍子パターンの図形が大きくなりすぎるし、動きのコントロールが難しくてテンポが一定にならなくなるし、演奏者からは見にくくなります。指揮棒があるので、手は小さく振っても、図形は大きくなります。
指揮台を叩いたり、スティックを叩いたりして合奏していると、手首をロックして、ひじを動かして振ることが習慣化されてしまうのかもしれません。
音楽の先生で授業などで合唱の指揮に慣れている方は、普段指揮棒を使わず、手だけで大きく振っているので、指揮棒を持った時に図形が大きくなりすぎてしまうのかもしれません。
主に手首を使ってコンパクトに振り、ひじは肩は手首につられて若干は動くものの、特に動かそうとはしないぐらいでちょうどいいと思います。
その3。上腕の方向と指揮棒の方向がずれていることがあります。上腕より指揮棒が上向き、下向き、あるいは内側に入っていることがあります。指揮棒の握り方を確認するといいかもしれません。
手のひらを上にして、指揮棒のグリップを手のひらの中心に置き、指揮棒と上腕の方向を合わせます。やさしく握り、そのまま180度ひっくり返して、手の甲が上になるようにします。それが基本の握りになります。手の甲が横を向いていると、手首が使えなくなって、ひじで振ってしまうことになります。
その4。右手と左手が常に鏡のように同じ動きをし続ける必要はありません。指揮棒を持っていない手でできることがたくさんあります。キュー、音量、フレーズ、表情などです。何もすることがなければ、手のひらを上にして、音楽のエネルギーを手のひらの上に乗せてホールドしているだけでも大丈夫です。
その5。曲がはじまる時の予備拍は基本1拍です。1小節前から4拍振る指揮も見ましたが、演奏者にとってはそんなに必要ありません。かえってやりにくくなります。♩=140を超えるテンポの速い音楽の時には、小さな予備拍を足して、予備拍を2拍にすることもありますが、基本は1拍です。
予備拍の時に指揮者が一緒に口から息を吸うと、演奏者もしっかり息を吸いやすくなります。弱奏の時ほどしっかりと吸います。鼻で吸うより口で吸う方がいいと思います。あと「ひゃーっ」と大きな音を立てて吸う必要はありません。かえってやりにくくなりますし、そもそも音楽的でなくなってしまいます。
その6。指揮を構えたら、すぐに振りはじめます。構えてから、もう一回生徒を見回したりする指揮も見ましたが、演奏者は指揮者が構えたら予備拍で吸えるよう息を吐いて待っているので、息が続きません。集中も続きません。100m走で言えば「よーい………………………どん」みたいな出にくさになります。
その7。構えた時に足が開きすぎる場合があります。足を開くと、どっしりしすぎてしまい、エネルギーが地面に向かって下向きに流れ出てしまい、指揮棒に向かって上向きに流れなくなります。足は少なくとも肩幅より内側におさめていいと思います。人前ですっと立ってスピーチする時の立ち姿勢です。
以上いろいろと書いてきました。指揮がよくなるだけで演奏が数段よくなるだろうなぁ、惜しいなぁという演奏もいくつも見ました。生徒たちは先生の指導の力だけでなく、指揮の力を必要としているんだなとあらためてよくわかりました。
プロのオーケストラプレイヤーは指揮者がどんなめちゃくちゃに振ってもきちんと演奏できると思いますが、生徒たちは指揮によるサポートが必要です。むしろ学校吹奏楽の方が高い技術の指揮が必要です。見やすく、わかりやすく振る指揮の基本技術がより大事になってきます。
私の指揮の先生、ユージン・コーポロン先生は「指揮者の仕事は演奏者の仕事を楽にすることである」とおっしゃいます。学校吹奏楽の指揮が、より生徒を支えるファシリテーション的な指揮になれば、生徒たちはもっと演奏しやすくなり、生徒たちの力がもっと引き出されると思います!
(2018/8/1)