先日、著者で同僚の渡辺貴裕さんをお招きして『小学校の模擬授業とリフレクションで学ぶ 授業づくりの考え方』の読書会をした。
表現教育の院生を中心とした参加者とともに過ごす熱くて楽しい3時間だった。「表現教育の人たちだから」と、渡辺さんの提案で模擬授業の部分、ふりかえりの部分のところを台本のようにみんなで役を割り振って読んでみたりもした。
この本は、教師や教師を目指す学生が授業の練習をしふりかえるやり方についての本だ。でも、私はこの本をそういうものとして読まない。人と人とがかかわる現場で仕事をする人たちすべてにあてはまる、考え試行しフィードバックをもらいリフレクションしながら熟達していくやり方についての本だ。
その意味では、中原淳さんのフィードバックについての本(『フィードバック入門』PHPビジネス新書,2017年など)にも通じるところがある。
うまくいかない何かに対して、自分で案を考え出してやってみて、ポジティブなものもネガティブなものも含めて正直なフィードバックを得て、よかったものについては継続し、よくなかったものについては変える。そしてすぐにまたやってみる。これが一番早くよくなるやり方だ。
しかし授業検討会という場では、これがそうはうまくいかない。
模擬授業の授業者(多くは学生や若手教員である)に対して、先生や先輩がまちがいを指摘して正しいやり方を教えようとする。授業者はそれに対して謝ったり言い訳したりする。あるいは授業者は指摘されたくないから、抜けや漏れがない計画づくめでリスクゼロの自己防衛ガチガチの授業をする。
またあるいは、先生や先輩はいろいろ言うと授業者が萎縮しちゃって申し訳ないから、本当はいろいろ思うところはあるけど正直なフィードバックをしない。
これでは授業がよくなったり授業者が成長したりすることはむずかしい。事前に正解がはっきりしておらず自分たちでこれからの正解をつくっていかなければならない現代においては、なおさらこんな授業検討では、イノヴェーティブな授業なんてつくれっこない。
でも人と人とがかかわる場では、それぞれに思いも感情もあるから、なかなかかんたんにはいかないむずかしさがある。
渡辺さんはこういう授業検討会を乗り越えるために、新しい模擬授業&授業検討の形を模索している。今その姿が見えつつあり、これから多くの人たちに広まろうとしている。その起爆剤になろうとしているのがこの本だと思う。
インプロのショーやワークショップのあとのふりかえりでも同じような問題が起きる。でも、それだとインプロはどれだけやっても上手にならない。
失敗するかもしれないリスキーなチャレンジングをして、それに対して正直なフィードバックをもらい、特にネガティブなフィードバックで落ち込まないようにして、やりつづける。これがインプロの生命線だ。
模擬授業とインプロではちがうところもある。模擬授業ではじっくり時間をかけてふりかえりをするが、インプロでは短い時間でふりかえりをする。模擬授業には深めるというプロセスがあるが、インプロではない。そのあたりの違いや、それがなぜ違うのかについても議論できて、少しわかってきた。
この本について特筆すべきは文章の読みやすさだ。私の尊敬する人たちはみなさん本質的なことをシンプルにやさしく書く。やさしい顔をして学習論の最先端の議論がそこかしこにちりばめられている。
また、この本であつかわれている教科が理科、社会、算数、国語、音楽、外国語と多様だ。教科教育のせまい枠に閉じない自由さがある。学ぶという営みは人と人がかかわらないと起こらない。学ぶ人とそれに寄り添う人のかかわりの本質に、教科の枠にとらわれないことで、ぐっとせまれている。
私は演劇を専門とし教育に興味を持った。渡辺貴裕さんは教育を専門とし演劇に興味を持った。同じ山に違う入口から登って出会った二人だ。同じで違う、そして縁あって今とても近くにいる渡辺さんとの交流から、これからもインスピレーションをたくさんもらい、あたえていければうれしいなと思う。
(2019/4/6)