即興哲学第50回 マスクは生きている

インプロのマスクには大前提があります。それは、マスクは、ものではないということです。マスクは自分ではない別の人格を持った人なのです。だから、マスクは自分でもありません。マスクをつけた時には、自分ではなく、そのマスクになるのです。

狂言師の野村万之丞さんの話を聞きに行った時、彼も同じようなことを言ってました。狂言ではマスクのことをオモテと言いますが、それを人格を持った人として丁寧に扱うのだそうです。だから、上演が終わって、オモテを取って、その真横ですぐ煙草を吸ってしまうような人はうまくならないんだそうです。

マスクをつけて鏡を見ると、声をあげたくなったり、動き回りたくなったりするかもしれません。それに逆らわず、声をあげ動き回ったとします。でも、それは自分の中に眠っているものが呼び起こされたのではなく、そのマスクがそうしたかったんだと考えます。自分ではない、別の人になること。最初はちょっと怖い感じがしましたが、一度体験してみたら、その面白さに私はすっかり魅せられてしまいました。

(2004/2/25)