即興哲学第72回 埋まっている物語

以前、BATSのRebeccaから面白い話を聞きました。インドでは、物語は地面のいたるところに埋まっているという考えがあるのだそうです。そして、語り部(ストーリーテラー)の仕事は、地面に埋まっている物語を、自分のからだを通して地上に出してやることです。だから、もし語り部が語る物語がつまらなかったとしたら、語り部が悪いのではなくて、そこに埋まっていた物語がたまたまつまらなかったということになります。

私はこの考え方をすごく気に入りました。物語の良し悪しは自分の責任というふうになると、どうしても自分で自分を縛ってしまいます。でも、もし、責任を感じなくていいなら、どんどん物語を思い浮かべてしゃべれるような気がします。実際、アイデアは突然天から降ってくるように感じることもありますし。

私は、この話を聞いて、夏目漱石の「夢十夜」の中の一つの物語を思い出しました。夢の中で運慶が漱石に「私は仏像を彫っているのではない。木の中に埋まっている仏像を壊さないように掘り出しているだけだ」と言う話です。Rebeccaにこの話をしたら気に入ってくれたので、私は「夢十夜」の英訳本を探して、Rebeccaにプレゼントしました。Rebeccaはとても喜んでくれました。

(2005/4/21)