即興哲学第6回 「人が変わる(Be Changed)」ということ

キース・ジョンストンが私の師匠だとしたら、レベッカ・ストックリー(Rebecca Stockley)は、私の先生です。レベッカは、サンフランシスコのBATS(Bay Area Theatresports)の代表で、俳優であり、教育者です。2000年6月末に東京で行われたワークショップで初めて会い、すっかり彼女に心酔し、それ以来、私はしょっちゅうBATSに行くようになりました。彼女からインプロのこと、そしてインプロを教えることについて多くのことを学んでいます。

インプロを教えることについて、レベッカから学んだ中で、一番印象の強いものを紹介します。それは、2001年の春、レベッカが来日して、私が成田空港まで彼女を迎えに行ったときの話です。成田エクスプレスの中で、私はインプロを教えることで悩んでいる、という話をしました。レベッカは、自分の手帳を取り出して、次のような図を書いてくれました。

Attention(注意)
┌──────────────────────────────┐
Vision (展望)
Accept Reality────Action────>Purpose(目的)
(現実を受け容れること) (行動)    Goal (ゴール)   
└──────────────────────────────┘
Appreciation(感謝) Express Gravity(厳粛さの表現)

それは、「人が変わる」ということについて、彼女が考えてきたことを図に表したものでした。人が変わるためには、目的を持ち、現実を受け容れ、そして、その二つの間をつなぐ行動をしなければならない。そのうちどの一つも欠かすことができない。レベッカは、部屋の掃除に例えました。まず、部屋をきれいにしようと思うこと、そして部屋が今こんなに汚いと把握すること、でも掃除しない人もいる。掃除をしないと部屋はきれいにならない、ということです。

そして、教育者は人を変えることはできない。人が変わるのを支援し、助けることができるだけである。では、どうやったら支援できるか?相手を注意してよくみて、相手に感謝をし、その気持ちを表現すること、この3つが大切であると。

彼女は、BATSを変えようとして10年くらい苦しんで、彼女の先生であるパトリシア・ライアン(Patrica L. Ryan)に相談する中で、人を変えることはできないと気づいて、このようなモデルをつくってきたのだそうです。これはレベッカが教えてくれたもののうちの、たった一つです。彼女は、自分が長い時間をかけて苦しんでつくってきたものを、惜しげもなく教えてくれる人なのです。

(2002/1/30)